・ 基本的確認事項 ・ 設計者の3つの顔 ・ 名称の由来と社訓・他・ 監督と監理
・ 建築工事の発注方法 ・ デザインが決まるまで  ・ 建設業の仕事の流れ
・ 5つの設計業務 ・ これからの建築計画   ・ 住宅メーカーと地元
  建設業者との違い
・ 設計報酬と期間     ・ 設計事務所と建設会社
  設計部門との違い
・ 設計事務所の選定基準    ・ 設計事務所の色々

 
 
T.設計者の3つの顔
私が人に紹介される時、良く次のように紹介されます。
一番多いのが<建築士の青木さん>という紹介のされ方。次は<環設計所長の青木さん>という紹介。最後は<環設計社長の青木さん>という具合です。どの呼び方でも全て正しいのですが、意味する内容には巾がある事を知って頂きたく思い、ここから始めました。
1 建築士としての私
まず建築士とは建物の設計の資質を有すると建設大臣が認めた者に与えられる資格です(一級建築士の場合)。
では建物を設計するとは何を意味するのでしょうか。まず建物とは何か?欠伸(あくび)をしながら聞いて下さい。
当たり前の事ですが<屋根・外壁により外部と遮断され、床・壁・天井等で内部が仕切られた物。自然の雨・風を防ぎ地震や台風等の非常時にも倒壊する事なく耐え、人が利用出来る内部空間を有する物。>と定義づけて良いと思います。
この定義に従えば、日常は勿論、非常時にも十分堅固であるように構造・構法に技術力を馴使すると共に、平面や外観のイメージを練り上げデザインや知識・感性を図面化してゆく過程が建築設計に他なりません。

<建築は時代を映す綜合芸術だ>と良く言われます。その時代の経済力・技術力と文化水準の反映の記憶が建築であるからです。しかし日本の建築教育は、ほとんどが工学部に建築科の籍を置き、カリキュラムも技術者養成が中心です。社会的にも技術者として迎えられる事が多いようです。しかし建築士は、技術者であると同時に造形家でなければなりません。
建築士として私は鉛筆一本サラシに巻いての気概で 技術の習得に努めると共に、古今東西の名建築や各種の美術品に触れ、造形家としての感性・感覚を磨く為の研鐙(けんさん)を今後も重ねてゆくつもりでいます。
2 所長としての私
さて建物の定義の内で<人が利用出来る空間を持つ>とも述べました。
そこで、この事について少し考えてみます。建築設計は先の技術とデザインで終了するものではありません。むしろ、この2つの要素の前に考慮すべき大事な前提要素があります。
それは<利用する人、つまり発注者が居る>という事です。

では発注者の要望とは何でしょうか。
それは企画に対する機能が確立しているかどうかという事です。建てるべきか否かの方針決定から何を、どう建てるのかの機能の決定です。マンションとしての機能を持って計画された建物をオフィスビルとして利用するのには無理があります。<機能は空間を決定する>という建築家の言葉に代表されるように、物としての建物が造形としての建築に昇華するのは、ひとえに機能の力による結果なのです。

発注者との信頼関係も欲求された企画に対して機能を十分に提案し、アドバイス出来るか否かで変って来ます。設計者の2番目の顔とは発注者の企画に対する機能のコンサルティング業務です。これは建築士として更に一歩、実務と経験を経た後、身につくものであり事務所の所長とは、この業務に責任を持てる地位に居る者です。事務所の得手・不得手とは、この業務に密接に関係する事なのです。
所長としての私は、発注者である利用者の顔の見える住宅や店舗・医院建築を得手とし、それなりの自信や見解を持っておりますが、顔の見えない賃貸マンションやオフィスビル等については、建築士の独りよがり的設計にならぬように心掛けてゆくつもりです。
3 社長としての私
さて建物の企画に対する機能が確立し、技術的・デザイン的に納得のゆく設計が完成して、設計は終了でしょうか。イヤイヤ最後に最も大事な現実的課題、そうです建設資金の問題が残っています。

建築士とし、所長とし、知恵やデザインやアドバイスを提供しても、最終的には発注者が資金を提供してくれなければ砂上の楼閣・画餅に帰します。何度も述べてきましたが大部分の発注者にとっては一生に一度の買い物・最大の出費です。設計者はこの大事な資金を、どう有効に活用させて頂くかを決定する重要な立場にあります。設計者はかように社会経済活動の一翼を担ってもおり、これが最後の3番目の顔です。

建築士や所長に比して社長という呼称は、お金のイメージが強くなりますが、発注者の大切なお金の有効活用や適正運営を決定する事は、設計事務所の社長職の最も大事な業務です。そして、それは建築士や所長としての資質や下地があって、初めて可能な業務なのです。(勿論、社内での給与支払い、社外での営業活動はあります。) 社長としての私は現在、税制や各種融資制度等、建築系以外の経営感覚の知識を身に付け、仕事に役立てようと勉強中です。

さて設計者の3つの顔の説明は、これで終了いたしますが最後にもう一つ、設計者としての大事な見識、街並みや環境に対する配慮について補足させて頂きます。
都市環境を構成する最小単位は間違いなく個々の建物です。建物は一般に不動産として築後20〜50年は街の内に存在し続けるはずです。それは発注者の生きた証(あかし)でもあり、街の記憶ともなって都市環境を形成してゆきます。歴史的建造物の保存か解体かの論議はここでは省略させて頂きますが、文化を大切にし、周辺環境に配慮し、荷作りに貢献する事が、これからの建物には求められています。設計者には自ら設計する建物と周辺環境との整合性を調整する都市環境デザイナーとしての4番目の顔が必要になって来ています。
※当社は<怒る事務所>としての評判があるようです。(私個人に対してかも知れませんが。)
設計の段階では建築士としての私が、教育・指導する所長の立場を忘れてツイツイ深入りしてしまい担当者を叱ってしまうからです。
現場では手戻りや施工ミス防止の為、何度も足を運び、口うるさく現場監督を指示するからです。(表向きは熱心な事務所、真面目な所長と言われてますが。)
これ全て設計者としての性(さが)による所以(ゆえん)。
所員の諸君、現場監督の諸君、皆さんが建築に熱心で優秀な事は解っているのですが、私から見ると今一歩なのです。そして皆さんが一歩登って来た時は私も一歩登って行ってるつもり。結局いつまでも怒っている事になります。改めて御免!
 
※「設計事務所に頼むと工事費が安くなるって聞いたからお願いしたのに。これなら知り合いの業者に設計施工で発注しても同じじゃないの。」と設計見積者を片手にご機嫌斜めのS夫人。
「ですから設計見積りとは材料や人件費の時価の集計であって、設計者が建物に付けた適正価格なんです。私が工事を請負って利益を出す為の見積書ではないんです。」
「それは分ってるけど最初希望した予算より15%もアップするなんて思ってなかったわ。」
「ですからね空調の打合せの時、全室空調は過剰設備だって申し上げたでしょう。他にもアチコチ希望は取り入れたのですから工事費だけが最初のままじゃ困るんですね。」と私。
「ともかく設計事務所を使って得か損かは、この設計価格を基準に判断して下さい。私も奥さんの希望を取り込んだこの建物を何とか希望の金額に近付けるように努力しますから。多少の変更はありますよ。」で、やっとS夫人に笑顔が少し戻りました。木造2階建・全室A.C付日本瓦葺きの和風調住宅を坪55万円は、本当無理なんですよ。設計事務所はディスカウント業者じゃないんですから。結局坪59万円でS夫人の希望をほとんど変更な く発注出来ました。
 
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