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U.デザインが決まるまで
建主よりデザインに関して質問を受ける事があります。
「どうして屋根はこんな形しているの」「なぜ外壁が丸くなってるの」「どうしてこんなに図面が必要なの」…等。おそらく建主の頭には親戚や友人の家、住宅展示場で見た○△の家等の先行イメージがあり、それらの類似案が提出されると思っていたところ、予想に反し意外な形態が提出された為、先の質問になったものと思います。冗談めかして「私の好みです。」とか「企業秘密です。」とお答えしていますが、ここで少し述べさせて頂きます。
まず設計とは図面を描く事では無く、何をどう作るのか、どこをどう見せるのかを考える創作活動なのです。そのイメージを現実の物とする為、工事に係る人達に説明する手段の一つが図面なのです。3次元の建物を2次元の図面で説明するより、極論から言えば実物大の模型を作製すれば済む事なのですが、それが難しいが故に数多くの図面を描く事になります。そしてデザインは私の場合、次の2つの螺旋(らせん)思考の内から生まれて来ます。
1 敷地を観る
敷地の形状や特性、周辺環境を見て廻り、その土地に適した構造や構法.機能や形態を考えます。敷地を観た瞬間、形態のイメージが湧いてくる事もあるのです。そして建物のテーマとコンセプトを自ら設定し、平面と形への習作(エスキース)が始まります。ノビノビと自由に鼻唄を歌いながら、又イライラと独り言をボヤきながら。ともかく気が済むまで、イメージが形になるまで、線を引き続けます。
2 三位一体の検討
建主になりきって空間や機能をイメージしつつ小言幸兵衛で図面の内を歩き廻ります。
次いで職人になったつもりで各部の寸法詳細や納り具合を図面の内でチェックし質問して来ます。
最後に自分の建築観に照らして自問自答で、鉛筆と消しゴムを両手に、繰り返し繰り返し納得が行くまで、勘が閃くまでエスキースを続けます。デザインが決定するのは、このような総合的判断と習作の繰り返しからであり、決して<好み>や<見た目の派手さ>からではありません。
では落語の小言辛兵衛や職人の気持で図面の内を歩き廻って検討すると述べましたが、どんな項目を検討しているのかを具体的に説明させて頂きます。大きく7つの項目に分類しています。
#1 強度は十分か (Strong)
地盤状況・基礎〜構造躯体・耐震性能等、人間ならば最も重要な骨格について検討します。
#2・健康であるか (Health)
通風と換気性・採光と日照状況・断熱性能や省エネ対策等、自然環境との係り合いを中心に検討します。
#3・快適であるか (Amenity)
給排水給湯衛生設備・冷暖房空調設備・コンセント〜照明器具・TVやTel等人間では神経系統にあたる各種設備について検討します。
#4・安全であるか (Safety)
火災や防犯対策・各種事故への予見対策・将来を見越したバリヤフリー対策等について検討します。
#5.美的であるか (Beauty)
シンプルイズベストを合い言葉に、外観や内部空間、各種仕上材の選定や各部納り詳細等を検討します。
#6・価値があるか (Value)
空間に遊び心やゆとりがあるか、見せ場は何か、周辺環境に対して何を配慮しているか、等の付加価値について検討します。
#7.金額は適正か (Economy)
お金を掛けるところと落とすところのバランスは適切か・過剰設備や過大仕上げはないか、資材の安い供給ルートは有るか等を検討します。
以上の項目について検討を重ねる訳ですが、健康的イメージの表現としてガラスを大胆に使って明るくすれば、プライバシィーが保ち難く防犯に不安が出ます。解決方法として電気防犯システムを導入すれば工事費があがります。かように建築設計とは矛盾した要素を内包しています。
設計とは、どの要素を取り入れ、どの点を捨て去るかの整理整頓の積み重ねとも言えます。その取捨選択の的確な能力とアドバイスこそが、経験を積み研鐙を重ねた設計者の、最も大事な知的財産でもあります。
※「窓は大きく明るくして、夏は涼しく、冬は暖かくネ」と言われても窓が大きければ夏は暑く、冬は寒いんですよ。「夏は風通しが良くて冬は隙間風が入らないように」って言われても、通風性を高めれば隙間も出来るんですがね。
もっと凄くなると「冷暖房は各部屋に、でも維持費は掛からないように。」となるとエアコン設置しても使わないのが一番安上りという事態になって、最後は「エッ、こんなに高いの!もっと安く交渉してよ」と叱られて「私は素人、あなたはプロでしょう」と言われてノックダウン。
<設計者黙らすに刃物は要らぬ。素人と一言眩きゃ良い>と独り言。
最近は建主の我儘に耐える術を少し知って来ました。
 
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